早稲田政経2011 解答・全訳


1.(a) 2.(c) 3.(c) 4. (c) (e)  5.(a)
6. (b) (c) (d) (a)  7.(d)  8.(a)

 多くの発展途上国がいつまでたっても貧しいままなのはなぜかということに対して,従来からある説明は,そういう国々には天然資源や資本財といったものがないからというものである。しかし たとえば台湾はそのどちらもほとんどない状態から出発したのに急速な成長をとげた。これは他の何かがからんでいるに違いない。貧しい国々に欠けているのはアイデアであって,ものではないという考え方が,ますます強調されるようになっている。

 最貧諸国の国民に大幅に向上した生活水準を提供するために必要な知識は,すでに先進国に存在している。もし貧しい国が教育に投資して,かつ,国民が世界の他の国々からアイデアを得ようとする動機付けを損なうようなことをしなければ,その国は,世界中で蓄積されている知識のうち公的に利用できる部分は速やかに利用できる。さらに、もし貧しい国が,私的に保有されているアイデアをその国の国境内で利用する気にさせるような誘引策を提供するなら―例を挙げれば,外国の特許や著作権や認可を保護することによって,つまり,外国企業による直接投資を許可すること,財産権を保護すること,さらには厳しい規制や高い限界税率を回避することによってだが―,その国の国民はすぐにでも最先端の生産活動の場で慟けるのだ。
 公衆衛生に関する見識のようないくつかの考え方は,発展途上国でも急速に取り入れられている。その結果,貧しい国々の平均寿命は,1人当たりの国民所得より速い速度で,先進国の平均寿命に追いついてきている。しかし,貧しい国々の政府は依然として,他の多くのアイデア,特に商品価値のあるアイデアの自由な流れを制限し続けている。北米の自動車会社は,自分たちは世界の他の国々で開発されたアイデアから学ぶことができるとはっきりと認識している。しかし,インドの自動車会社は,何十年もの間,政府によって作られた保護主義的なゆがんだ時間の中で操業を続けた,1950年代にイギリスで生産されたヒルマンやオースチンの車が,1980年代まで引き続きインドの生産ラインから送り出されていた。独立後,インドが自ら門戸を閉ざし,自給自足を目指すために注いだ力は,台湾が外国の会社が持つアイデアを取り入れて世界市場に十全に参入するために注いだ力に匹敵するほど強いものだった。その結果は,これ以上ないほど異なるものとなった。
 インドのように貧しい国でも,先進国の会社が持つアイデアを取り入れるだけで,生活水準を大幅に向上させることが可能である。1980年代に始まり1990年代前半に深く浸透した一連の経済改革によって,インドはこれらの機会に門戸を開き始めた。世界の他の国々に本拠地をおく会社で今や働いているソフトウェア開発者たちのような,インドの一部の国民にとっては,このような生活水準の向|こが現実のものとなっている。これと同様の開放政策が,中国の生活に目を見張るような変化をもたらしている。 20世紀の最後の25年間における中国の成長は,多国籍企業による外国からの投資によって推し進められたという面が非常に大きい。
 米国,カナダや欧州連合の加盟国のような先進諸国は,他のどこかで開発されたアイデアを取り入れるだけでは先頭にとどまり続けることはできない。むしろそれらの国々は,新たなアイデアを発見しようという気にさせる強力な動機付けを,国内で行わなければならないのだが,これは簡単にできることではない。アイデアをとても貴重なものにしている,まさにその同じ特性一誰もがそれを|司時に利用できるということだーは,アイデアへの投資にふさわしい利回りを得るのは難しいということもまた意味している。新たなアイデアから利益を得る多くの人々が,他人の努力に,いとも簡単にただ乗りできてしまうのだ。
 ベル研究所でトランジスタが発明されてから,これを応用した多くのアイデアが展開さ糺 その後になって,この基礎的な科学的発見が何らかの商品価値を生むようになった。これまでに民間企業は,改良された製法を次々に開発して,トランジスタにかかる費用を,以前の100万分の1以下の水準にまで引き下げた。しかしそれらの発見から生まれる利益の大半を得てきたのは,トランジスタの技術革新を行ってきた企業ではなく,それを使う人たちだった。 1985年には,私は,自分のコンピュータのメモリについてトランジスタ数100万あたり1000ドルを支払っていた。2005年には,私は,トランジスタ数100万につき10ドル足らずしか払わなかったが,私は,こうした棚からぼたもちを得るに値するようなことはしていないし,これに報いるために一役買ったわけでもない。もレ政府が,石油会社の発見した石油の大半を没収して,消費者に与えたとしたらどうだろう。それは,こうした会社に重税をかけるようなものだろう。その結果,石油会社はますます油出開発をしなくなるだろう。それでも偶然見つかる石油はあるだろう。しかしながら,多くの将来性のある開発の機会が失われるだろう。石油会社と消費者の双方が,さらに困窮するようになるだろう。トランジスタの改良から得られるような利益が漏出することは,一種の税金のような機能も果たし,開発への意欲に対しても同様の影響を及ぼす。このために ほとんどの経済学者は,基礎的な科学研究に対する政府による資金援助を支持している。しかしながら,彼らは同時に、基礎的な研究に対する助成金はそれだけではトランジスタやウェブ検索のような基礎的なアイデアを価値の高い製品やサービスに変えるために必要な,それらを応用したたくさんのちょっとしたアイデアを見出す動機付けとはならないだろうということも認識している。
 進歩と発展を生み出すには,大学の科学者だけでは足りない。生産工学やプロセスエ学,あるいは新たなビジネスモデルの開発といった一見ありふれた形の発見が,社会全体にとって非常に大きな恩恵をもたらすことがある。確かに これらの発見をする会社にも何らかの利益はあるが,それは理想的なペースで技術革新を生み出すのに十分なものではない。会社に新しいアイデアに対してさらに厳格な特許権や著作権を与えるのは,新たな発見をしようという意欲を高めるだろうが,同時にそれによって,それ以前の発見に基づいて事を進めることが,はるかに多くの費用を要求する事柄になってしまうかもしれない。したがって,より厳格な知的所有権は逆効果を招くことがあるだろうレ成長の足を引っ張るかもしれない。
 おそらくあらゆるアイデアの中で最も重要なものは,メタアイデア,すなわち,他のアイデアを生み出し,それを伝えるのを,いかにして後押しするのかに関するアイデアである。17世紀に イギリス人は,発明を保護する特許という近代的な概念を考えついた。北米の人たちは,19世紀に現代のような研究活動を行う大学を創出し,20世紀には,基礎的な研究に対して,同領域の専門家の査読による,競争的な助成金制度を発案した。先進国のすべてが現在直面している課題は,私的な活動領域内で,高い水準の応用的な研究と開発,しかも商業的にも適切な研究と開発を促すような,新たな諸機関を創出することである。
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